【地球とともに暮らす人々のおはなし no.5】 海の守り神ホヌ
- 2016/03/16

 

no.5
海の守り神ホヌ

ハワイでは海と親密に関わってきた人が海で命を落とすと、亀に生まれ変わるという言い伝えを聞いたことがある。オアフ島のワイメア湾では、大きな波が割れると必ずそのラインナップ(波に乗るために割れ始めるところでサーファーがスタンバイする位置のことを言う。)に2匹の大きな亀が現れるという。サーファー達はその亀を二人のハワイアンビッグウエイブサーファー、エディー・アイカウとホセ・エンジェルの生まれ変わりだと信じている。

ホセは珊瑚を取るためのダイビング中の事故で、エディーはハワイアンのルーツと文化を探る二艘カヌーホクレアのクルーとしてタヒチに向かう途中、仲間のクルーを救うために嵐の中救助を呼びに向かい、そのまま行方不明になってしまったのだが、生前はワイメアの波をこよなく愛していた。エディーはワイメア湾のライフガードで、そこで働いているあいだじゅう一人の死亡事故も出さなかった。

今でもワイメア湾ではエディー・アイカウをたたえるビッグウエイブコンテストが開催され、その大会に招待されることはサーファーにとって最も大きな栄誉の一つなのだ。そんなふうに彼らのスピリットはビッグウエイブサーフィン、ハワイの海文化に受け継がれている。

 

80年代後半、最も優れたビッグウエイブサーファーであり、ノースショアのライフガードだったデレク・ドーナーは当時ワイメアで信じられないような経験をしたと言う。

その日の朝は雨まじりで、空は厚い雲に覆われていた。暗いうちから彼はワイメアに向かったが、波は予想通り巨大で誰もいなかったし、それほど大きな波に向かっていこうという仲間のサーファーはいなかった。彼は一人でアウトに向かい、一本ものすごい波に乗ったがその後リーシュコードが切れ、板を離れてしまった。ものすごい潮の流れに乗ってしまい、板を取り戻すことも岸に戻ることもできないまま、危険な岩場の方に近づいていき、ワイメアの湾の中を潮の流れに流されながら2周くらい泳いでも帰ってこれずにいた。さすがの彼もこのまま助からないかもと、何度もなんども大波に巻かれパニックを起こしかけていた。

ぐるぐる巻かれてやっと海面に頭を出した時、目の前に一つの足ヒレがぽかっと浮かんできた。信じられない思いですかさず掴んでみると、それは自分に合うXSサイズのもので、自分のために天から放り投げられたように感じられた。片足にそれをはめて泳ぐと、今までとはまったく違うスピードで泳ぐことができ、危険を免れ岸に戻ってくることができた。亀の話はデレクに聞いた話なのだが、彼はこの足ヒレも先輩ライフガードであり、彼の師であったエディーが、助けてくれたのだと信じていた。

 

私の友人でも大波の中で亡くなった人が何人かいる。そして私も彼らが亀に姿をかえて私達のことを見守ってくれていると、なんとなく信じている。

大きな波の日に沖に出るのはいつでも緊張する。なんとか出てからも、そういう時の海は潮流も強くうごめくモンスターのように水が動き続けていて、普段とはまったく雰囲気が違う。絶対に波が割れないだろうというはるか沖にいても、なんだか突然この一本だけは自分の前で割れ始めて自分を飲み込んでしまうのではないかと不安になったり、大きな海にいる無力でちっぽけな自分を実感させられる。

そんなときに必ず、普段見たこともないような巨大な亀に遭遇する。そしてそれがなんとなく私を見守ってくれているような気持ちになるのだ。もちろん波がないときも亀はしょっちゅう見かけるが、緊張してなかなか沖に出られないような波の日には、まず亀を探すのが癖になってしまった。なんだか、亀になった友人達がちゃんと私が安全かを海で見守ってくれているのか確認しないと波に乗るのが不安で、荒れた海面の中にぽこっと浮かぶ黒いこんもりした甲羅をきょろきょろ探してしまう。そしてそれを見つけるとホッとして「ちゃんと見守っていてね、お願いしますね」とそこで初めて波を取ろうという気持ちになるのだ。
本当のところはわからないが、信じることで安心させてもらえるホヌの存在は、古代のハワイも今もあまり変わらないのではないかなと思う。

 

 

【Profile】
岡崎 友子(おかざき ともこ)
鎌倉で生まれ育ち、ウインドサーフィンのプロとして世界を回る。1991年のウェーブライディングで世界ランク2位など。その後スノーボード、カイトサーフィン、スタンドアップパドルと道具が変わってもよい波や風、雪を求めて旅を続ける。旅や出会った人たちから受けるインスピレーションをテーマにフリーランスのライターとしても活躍中。

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デザイナー KURO
趣味:和太鼓