
パタゴニアのサーフィンアンバサダーとして、海を中心としたライフスタイルや考え方を伝える岡崎友子さん。ウィンドサーフィンの世界に置いて数々の輝かしい成績を修めるも、大会に出場することより、気の合う仲間たちとよい波や雪を求めて旅をすることに魅力を見出だし、そのスタイルを続けています。そんな岡崎さんに、海に対しての向き合い方、海とのつき合いの中から見えてきたことなどをうかがいました。

HLC パタゴニアのサーフィンアンバサダーとはどのようなことをされるのですか?
――これは肩書きの1つです。メーカーのスポンサー制度とは違い、“この歳までよく遊び続けられました”という賞状みたいなものではないでしょうか(笑)。波に乗ることだけでなく、海を中心としたライフスタイルや海に対しての向き合い方、そこから生まれた考え方など、何か伝えられるものがあるだろうということで、アンバサダーとして使ってもらっているのだと思います。
HLC その考え方とは具体的にどのようなものでしょうか?
――例えば温暖化が進んでいるとグラフを見せられても、あまり説得力はありません。しかし子どもの頃から海で遊ぶ楽しさを知っていたら、温暖化はいかに大変なことかが実感として分かります。その意味でも、子どもの頃から海や山で遊び、体や心で学んで欲しい。そして危険なことに対して自己判断能力を養うために、親も一緒に遊んで欲しい。始めは外でコーヒーを作って飲むだけでもよいのです。それが気持ちよいと感じたら、今度はキャンプをしてみようと、徐々に自然の中に入っていく楽しみを感じてもらえます。
HLC そもそもサーフィンを始めたきっかけは?
――生まれ育った由比ガ浜は海水浴場なので、サーフィンが身近にあったわけではありませんが、存在自体は知っていました。中でも当時日本に入ってきたばかりのウィンドサーフィンは新鮮でしたね。14、5歳のある日、土砂降りの雨の中でウィンドサーフィンをしている人を見かけたのです。何が楽しいのだろうと思いながらも、目が離せませんでした。それからしばらくして中古のボードを譲ってもらい、16歳で始めました。
HLC それからウィンドサーフィン一色に?
――高校時代は茨城県に住んでいたので、海に行くチャンスはあまりありませんでした。受験などもあり、ウィンドサーフィンをする機会がないことが、余計に気持ちを募らせていったのです。大学生になると学校へはほとんど行かず、教授にも「君の専攻はウィンドサーフィンだね」と言われるほど海に通っていました。
HLC 当時の光景が目に浮かぶようです。
――うまくなるためにはマウイ島に行くのが手っ取り早いと聞き、日本でアルバイトをしてお金をためては、マウイ島でウィンドサーフィン三昧という生活を続けていました。卒業する頃にプロになり、それからスノーボードやカイトサーフィン、スタンドアップパドルサーフィンなども行うように。ある1つのスポーツに関して練習の仕方が分かると、他のスポーツに関しても何となく自信がついてきます。人の3倍練習すれば私でもうまくなるということも分かってきました。

HLC 1991年のウェーブライディングで、世界ランク2位という功績を残されています。
――皆がそうするように、当初は大会に出て競うものだと思っていました。しかしワールドカップである程度の成績を残しても、自分にとって数字はそれほど重要でないことに気づいたのです。その後に訪れたアラスカにノックアウトされ、ランキングや順位の数字を追いかけるためではなく、経験のためにお金を使おうと思いました。人が乗ったことのない波を探し、滑ったことのない山に行き、その土地の文化や住んでいる人と出会うことも、楽しみの1つだったのです。
HLC 人が滑ったことのない山をすべることの魅力は?
――自分のちっぽけさを感じられることです。よく「山頂を極めて山を征服した」と表現されることがありますが、実際に登っている人はそう感じていないと思います。おそらく山頂に立った時、圧倒的な自然のパワーを前にして、自分がいかにちっぽけな存在かということを感じているのではないでしょうか。
HLC なるほど、自然のパワーに圧倒されると。
――例えば激しい台風で沖のほうから波が割れてやってくるとします。それを「出られないじゃん」と見ている自分がいる。太刀打ちできない自然を目の当たりにすることや自分がコントロールできないところで物ごとが動いていることが嬉しいのです。アラスカやハワイでビッグウェーブに乗ると決めても、1カ月待ち、結局1度も乗れずに帰ってくることもあります。その時はがっかりしますが、自然に翻弄されている自分もよいのです。まるで、男の人が素敵な女性に振り回されながらも喜んでいるのと一緒かもしれません(笑)。

HLC 現在ヨガリトリートのオーガナイザーもされています。
――ヨガリトリートでは3日間とか1週間とかの一定期間、ヨガのことだけを考えられます。豊富な自然があり、心がオープンになりやすい環境の中でヨガを続けると、深いところまで染み通ってくるのです。ハワイのリトリートに来る方は真面目な方が多く、純粋な人であるほど仕事のストレスをためてやってきます。ハワイで過ごした時間に余裕のある生活を、日本に帰って思い出してもらうだけでも、一息つけるのではないかという思いで始めました。
HLC ヨガの魅力とはどのようなところでしょうか?
――ヨガの先生は、全ての人がヨガをするべきだとは思っていません。人間の目的はハッピーであること。そのためには健康で運動ができ、ストレスがないこと。これらの要素さえあれば、ヨガでなくてもよいのです。ウィンドサーフィンのウォームアップのために軽い気持ちで始めたのですが、ヨガを通して、徐々に自分にとって本当に大切なものが見えてくるようになりました。自分の今の状態を受け入れることの重要性も学びました。
HLC ヨガはサーフィンにも活かされていますか?
――これまで、どちらかというとアドレナリンが出るスポーツばかりを行ってきたので、バランスがとれていなかったのでしょうね。ヨガはグランディングワーク。地に足を着けて落ち着かせるものです。運動としてもよい筋肉がつきますし、ストレスを取り除く作用もあります。実は最近、腰を痛めて動けない時期がありました。腰の周りの筋肉も衰え、立っているだけで腰がずれるという始末。しかし深い呼吸により体に酸素を送り込むことでインナーマッスルがつき、徐々に回復していきました。
HLC ところで、マウイ島を拠点に選んだ理由は?
――最初はただウィンドサーフィンの練習に一番いいところ、が理由でした。今も海のスポーツが出来ることが一番の理由ですが、それだけでなく、ライターとしても波があり、風があり、フラや音楽といった文化も面白い。そしてそれに惹かれてここにいる人間も面白い人が多い。これについて書きたいと思うネタにあふれています。日本や他のハワイの島々、メインランドにも近く、旅をするにも便利だし。最近ではマウイに半年、日本に2、3カ月、その他は旅をする生活です。自分自身はあまり住んでいるという意識はありません。本当に住みたいと思う場所があったらもう少し落ち着いていると思うのですが、相変わらず旅が多いです。
HLC ビッグウェーバーたちのインタビューをされています。
――彼らに惹かれるのは、大きな山に立った時の極限のようなものを感じるからです。彼らは死んでもおかしくないような波の中に身1つで漕いで行き、ひと波で、これまでにない喜びや恐怖、高揚感など様々なことを感じ、人生を一回りしてきたかのような顔して帰ってきます。これから日本のビッグウェーバーにもインタビューをしていきたいと思っていますが、彼らのほとんどは頑固親父かシャイな人たちなので、ある程度つき合わないと深い話を聞き出すことができません。彼らが最も輝く大きな波の日に自分もその場所にいて、実際にこの目で見て、一番輝いている時にこぼれてくる言葉を拾いたいですね。
HLC ジェリーロペスさんの翻訳もされていますね。
――最も尊敬する先生です。彼は常に物静かですが、その言葉には学ぶところが多くあります。書籍のタイトルになった言葉「SURF IS WHERE YOU FIND IT」も、10年ほど前にいただいた言葉です。彼に波に乗るためのよい場所を教えて欲しいと質問責めをしていましたが、結局は自分次第なのだと言われたのだと気づかされました。彼の言葉は飾り気がなく、シンプルなのに奥が深いのです。
HLC どのような方なのですか?
――誰にでも同等に接し、とても謙虚でオープンマインドな人です。人間歳をとると頭が固くなってくるものですが、サーフィンだけにこだわらず、何ごとも必ず1回は自分にとり込んだ上で、今後続けるかどうかを決めます。当時は55歳くらいでしたが、スタンドアップパドルサーフィンを始めるところでした。この春に会った時は60歳を過ぎていましたが、カイトサーフィンを始めていたのです。しかもしっかり乗れていて、感動しました。

HLC 海とのつき合いの中で見えてきたことはありますか?
――今自分が知っていることは、ほとんど全て自然の中、特に海や海で知り合った先輩から学んできたものです。サーフィンに限っても、どこに行くべきか、乗るべきか、乗らないほうがよいのかなど、瞬時に判断しなければなりません。また、自らが与えることで、それがまた自分に帰ってきます。海にばかりいたので、海でしか学べなかったというのが正直なところですが、そうやって学んだことが普段の生活で使えたります。海は先生であり、学校です。少しでもおごった気持ちで出て行くとやられてしまいますが、頑張っているとご褒美をもらえます。
HLC 今一番力を入れていることは?
――今までずっと自分の好きなことを夢中になってやってきました。それはこれからも同じです。できる限り周りに迷惑をかけない範囲で好きなことをやり続けたい。ここ2、3年腰を痛めて思うように海に出られなかったのですが、やっとトレーニングができるようになりました。これからハワイは真冬のシーズンを迎えます。帰ったらトレーニングをしてもう少し大きな波に乗りたいですね。
HLC 岡崎さんが考える人生の着地点は?
――できる限りシンプルに生きること。あまり贅沢をせずに、でもハッピーでいられたらいいですね。そして死んだときに「あいついいやつだったな」と思ってもらえたら完璧です(笑)。
HLC ありがとうございました。
【Profile】
鎌倉で生まれ育ち、ウインドサーフィンのプロとして世界を回る。1991年のウェーブライディングで世界ランク2位など。その後スノーボード、カイトサーフィン、スタンドアップパドルと道具が変わってもよい波や風、雪を求めて旅を続ける。旅や出会った人たちから受けるインスピレーションをテーマにフリーランスのライターとしても活躍中。【編集後記】
お話を伺った場所は、来日中よく顔を出すという岡崎さんのご友人のお宅。その近所に住む子どもたちは“ともちんいるの?”と、彼女の訪問を心待ちにしていた様子。とっても気さくに冗談を交えながらご自身のことをお話してくださった岡崎さん。自然を愛し、その懐に飛び込み共に生きている彼女のライフスタイルや考え方には、学ぶべきところが多い。