
資生堂や伊勢丹などの企業広告や雑誌、テレビCM、映画「ハブと拳骨」、写真集『saltwater sky』……。サーフィンカメラマンからスタートし、写真だけに留まらず映像作品も多く手がけ、今や様々な分野で活躍している芝田さんに、カメラマンになるきっかけとなったサーフィンとの出会いやこれまでの人生、今後予定されていることなどをお聞きしました。

HLC 生活のベースは海、サーフィンという芝田さんですが、サーフィンを始めたきっかけは?
16歳の時に、なんとなく見ていたテレビでサーフィンスクールの案内が放映されていたので、ふと足を運んでみたのです。それまではサッカー少年で、ずっとチームプレイに縛られていたため、完全に自由で全て自己責任のスポーツにすぐに魅了されました。それからの高校三年間は、毎週末、自宅の埼玉から千葉や茨城の海に通っていましたね。当時は、まだ世の中にサーフィンが浸透しておらず、親にもなかなか理解されなかったので、高校を卒業してからは家を飛び出して湘南に移り住みました。サーフボードを作りながら、波がある日はサーフィン三昧という生活です。
HLC そこまでお好きなサーフィンの魅力は何ですか?
全て自然が相手だということ。波は自然がつくるものなので、自分が自然の条件に合わせないと逃げられてしまう。それに、自然を崇拝していないと危険な目に遭います。これまでサーフィンの他にもフライフィッシングやフリークライミングなどもやってきましたが、結局は海に戻ってきてしまいました。痛めつけられるけれど気持ちいい。そういうのが好きみたいです。
HLC サーフィンに出会って、ご自身の中で変化したことはありますか?
16歳からのつき合いなので、サーフィンと共に育ってきたようなものですが、自然をリスペクトすることは常に学んでいました。目の前で溺れてしまった何人も見てきたし、助けたくても、自分がやられてしまうから助けられない時もある。逆に、自分が危険な状態にあっても助けてもらえません。そういうことを自然から学びました。

HLC 今はどのような生活を?
波があればサーフィンをし、仕事の依頼があれば撮影に行き、暇なときは自転車に乗って本気で走るという毎日です。先日は箱根まで走ってきました。ハワイにプライベートで行くこともありますが、日々波チェックに追われて終わってしまいます(笑)。実は20年位前、ハワイでギャラリーをやろうとして、真剣に移住計画を立てたこともあります。結局日本に留まることになるのですが、それでよかったと思っています。そのおかげで生まれた写真もありますから。
HLC とても素敵なライフスタイルですね。
毎日、生きていられること自体幸せなことだと思い、あらゆることに感謝して生活しています。本当に辛いことがあっても、それを乗り越えれば必ず楽しいことがある。そう考えるようになったのは、大切な友人を立て続けに亡くしてからです。人は、たった1秒のすれ違いで生まれてこられない。こうやって生きていられること自体すばらしいことなのだと思うようになったのです。この生活に甘んじてはいけないと思っていますが、いろいろな誘惑に負けてしまうのが人間ですよね(笑)。何はともあれ、海は最優先です。波はプレゼント。一番リスペクトしておかないと、プレゼントはもらえませんから。

HLC 話は変わりますが、写真とはどのように出会われたのですか?
当初、写真にも映像にも全く興味がありませんでした。初めて買ったカメラは“ニコノス”という水中カメラ。それで仲間たちを撮っていました。そのうち『サーフマガジン』などの雑誌が出てきてサーフィンの写真を探していたので、見せたらすぐお金になったのです。好きなサーフィンを撮れるというので、カメラマンになりました。そのタイミングで雑誌が出てなかったら、おそらくここまで写真に入れ込んではいなかったと思います。
HLC 今は自然の写真をよくお見かけします。
サーフィン写真よりも、その途中にある風景やサーフボードを抱えて歩いている人を素敵に撮ることのほうが好きで、いつかそれをメインに活動していきたいと思っていた。それで、サーフィン雑誌の仕事は30歳くらいの時に卒業しました。
HLC 映像はどのようにして学ばれたのですか?
友人が仕入れてきた「フリーライド」という映画の興行が大成功し、収益を得たので、映画を撮ろうという話になりました。それで、当時スチールカメラマンをやっていた自分が映像の勉強をするために、東京で1年間アシスタントをして撮影技術をマスターしたのです。結局その映画作りは実現しませんでしたが、技術が身についたので、それからは映像も手がけるようになりました。
HLC 以前は東京にスタジオや事務所を構えてらっしゃいましたが。
夢は、年をとるに従いどんどんなくなってしまうものです。憧れのサーフスポットは全部行き、カメラマンにもなれ、本も出せた。会社を起した時は夢がなかった気がします。会社を維持することやお金儲けが夢になってしまう。それは悲しいことで、失うものがとても多かったような気がします。それで、会社のために働くことはやめようと、身軽になり、ここ葉山に移ってきて19年になります。
HLC 最近はどのような活動を?
ここ数年、写真展をやっています。本を出しても直に反応は返ってきませんが、写真展では様々な反応が返ってきます。それがおもしろい。自分が好きな写真と人が好きな写真は違うということが分かるし、開催する場所によって全く評価されなかったり、ものすごく評価されたりします。ギャラリーを作ろうかとも思いましたが、それよりは世界の大都市にある写真専門のギャラリーにオリジナルプリントを置いてもらおうかと考えています。この夏に、一昨年に出した『saltwater sky』の第2弾が出版される予定です。その写真のオリジナルプリントを、きちんとしたレベルで世の中に伝えていきたいと思っています。

HLC 芝田さんが伝えていきたい写真とは?
気持ちのよい写真です。あれこれと説明しなくても、見た人が「美しい」と思い、少しでもその写真に吸い込まれてくれたら、成功だと思っています。それは昔からずっと思ってきたことで、これまでも突き詰めてきた。もしかしたら、写真を見て心を動かされたことがない人は世の中にたくさんいるのではないかと思い、その人たちに届けたいと思っています。放浪の旅に出て、写真を撮り続ける……ということをいつかやるかもしれません。かなりの決心が必要ですが。
HLC ありがとうございました。
【Profile】
1955年生まれ、葉山在住。ロマンティックで情緒的な写真はサーフィン界のみならず、様々な分野から支持され、広告を中心に雑誌のエディトリアルや映画・CMなどの映像も多数手がけている。代表作品に『Daze』(マリン企画)、『Lei』(ワールドフォトプレス)、『カイマナヒラの家』(集英社文庫)、『SUMMER BOHEMIANS』『saltwater sky』(Bueno Book’s)など。映画では近年多くの国際映画祭に招待された『コトバのない冬』の撮影を手がける。生活のベースはあくまでも海、そしてサーフィンであるという姿勢は変わらない。芝田満之ウェブサイト http://www.firstswell.com/
【編集後記】
また会いに行きたくなる人だと思った。芝田さんの撮った映画はたくさん観てきたし、写真も何度も目にしてきた。これほど名の通った方なのに、まるで友人と他愛もない話をするかのような雰囲気で、時折冗談を交えながら、淡々とご自身のことを話してくれた。“全てのことに感謝しながら生きている”という生き様には、学ぶところが多い。海の近くで穏やかな生活を送りながらも、自身の使命を果たすべく情熱的な活動を続ける芝田さん。今度は一升瓶を囲んで、世界中の海を旅した話を心ゆくまで聞いてみたい。