ここ数年で観光名所の1つとして名が浮上したオアフ島のカカアコ地区。その根源となったのは、この地で開催されているコンテンポラリーアートイベント「POW! WOW!Hawai’i」と言っても過言でないでしょう。その創立者の1人がジャスパー・ウォンさんです。アートが持つ力や発信力に着目し、アートを中心とした世界の人々のネットワークづくりに力を入れている氏に、「POW! WOW!」や現在のアートシーンに思うことなどをうかがいました。

HLC まず「POW! WOW!Hawai’i」を創立したきっかけ、カカアコに着目した理由を教えてください。
—— 「POW! WOW!Hawai’i」は2011年にスタートしました。当時のカカアコは、産業地帯ということもあり、まるで忘れられた地区のような印象で、人が集まる場所といえばフィッシャー・ハワイという店に買い物に来る時くらい。しかし、すぐ近くにはワイキキやアラモアナ、ダウンタウンなどがあるホノルルの中心地なので、場所はよかったのです。ここに人を呼ぶために何かできないかと思ったのがきっかけです。
HLC それで、壁画を思いついた。
—— ええ、ちょうど産業地区という場所柄、壁面が多いビルがたくさんありました。そこにアートを描いたらそれを見にくる人がいるのではないか、たくさんの人を集めることができるのではないか、アートを通したコミュニティーを作り、そこから何かを発信できるのではないかと考えました。
ハワイはギャラリーが少ないので、公共の場に描くことでもっとアートに親しみを持ってもらったり、アートを見た人たちがインスピレーションを受けて自分たちもアーティストになりたいと思ったりしてもらえるのではないかと。そうやって色々な人たちにアートを広げたいという気持ちがありました。現在100点もの壁画があります。
HLC すごいですね。今では世界中からアーティストが集っています。
—— ハワイのローカルアーティストだけでなく、世界中からアーティストを呼ぶことによって、ローカルアーティストと世界のアーティストを繋げることも大事だと思ったのです。アーティストそれぞれに歴史や文化があります。それぞれのルーツや文化、人物像などを壁に描くことによって、アートを通じて世界中の人たちが家族のようにつながれるのではないか。アートを通じて、それぞれのストーリーをシェアしていくことも1つの狙いです。

HLC なるほど。現在、変わったカカアコを見てどう感じますか?
—— まさかこれほど成功するとは思いませんでした。今はたくさんの人がこの地を歩いたり、写真を撮ったりしています。9年前は産業地区だったのが、今は商業施設やカフェ、レストランなどができました。当時思い描いていた、人が集まるエリアになったので、本当にうれしいです。
HLC 「POW! WOW!」は世界の各都市でも開催していますね。
—— ハワイ以外だと15都市、そのうちの10都市では毎年開催しています。今年はシンガポールやイタリアのベニスでもやらないかという話をもらいました。
HLC 世界が注目しているのですね。日本ではいかがですか?
—— 日本では4年になり、これまで東京、神戸、大阪、岡山で開催しました。私のチームが神戸を本拠地にしているので、関西を中心に毎年異なる場所で開催しています。今年は沖縄を考えていますよ。

HLC 今年も期待しています。
—— 実は日本での開催はとても難しく、政府の協力を得られなかったり、壁の提供に理解を得られなかったりなどのハードルが多くあり、もっとアートの啓蒙活動をする必要性を感じています。昨年は1つの場所でたくさんの壁画を描くというのではなく、少ない人数で大阪・岡山・神戸と移動しながら描く、日本のマーケットに合ったスタイルで開催しました。
HLC そうですか。ジャスパーさんはこれまでサンフランシスコ、香港、京都など様々な都市に住まれていましたが、各都市から受けた影響は?
—— 京都では京都精華大学で漫画を学びました。ハワイには日本の文化が根づいていて、私もドラゴンボールを見て育ったので。また、香港では初めてギャラリーをつくりました。実は「POW! WOW!」はもともと香港からスタートしたのです。こういうことをずっとやっていきたいと思うきっかけになった都市です。
住んでいたそれぞれの都市で様々なインスピレーションを受けましたが、やはり一番印象に残っているのはサンフランシスコです。アートカレッジに通っていたのですが、当時はアーティストがたくさん生活していて、アートショーなどもたくさん行われていました。そこで様々なアーティストと出会い、多くの刺激を受けたのが「POW! WOW!」誕生のきっかけになったのかもしれません。

HLC 今後の課題はありますか?
—— ありがたいことに「POW! WOW!」は世界中に広まっていっています。しかし、今後どうやって続けていくかということが1つの大きな課題です。このイベント自体、一般に公開された無料のイベントで、私たちの情熱だけでやっているようなものです。これにより収入を得たり、アーティストに報酬を支払ったりできているわけではありません。今後はブランドとして築いていって、そこから得られる収入でイベントを継続していけるようにしなければならないと思っています。
HLC ありがとうございました。
【Profile】
ジャスパー・ウォン コンテンポラリーアートイベント「POW! WOW!」の創始者でありリードディレクター。地域とアートシーンの活性化を目指す。「POW! WOW! Hawai’i」は2011年ジャスパーと、カメア・ハーダーとティファニー・タナカの3人でスタートした。次世代を担う若手アーティストや子供達にアートを通したコミュニケーションを提供し、アーティスト活動の素晴らしさを伝えるためにLana Lane Studioを運営。ハワイや日本にとどまらず。アメリカ本土や台湾などでも活動中。
http://jasperwong.net/【編集後記】
今やハワイの代表的な観光地へと成長したカカアコのウォールペイント。取材当日もたくさんの観光客がスマホで写真を撮影していました。日本人にとって敷居の高いイメージのアートを、ここまでメジャーにできたのは、彼自身もアーティストとしてこのムーブブメントを楽しんでいるからではないかと思いました。アートの力を使って世界を繋いで行く活動を、単なる流行だけで終わらせず根付かせていくことに、私たちHLCも応援していきたいです。