【Aloha Interview Vol.102】ボディーボードインストラクター&ヨガインストラクター/登坂由美恵さん
- 2019/01/27

聴覚障がいをもちながらも、プロボディボーダーになった登坂由美恵さん。健聴のプロ選手と互角に戦いながら、本場ハワイの国際大会でも輝かしい成績を収めました。現在はヨガインストラクターとしても活躍する彼女に、人生を大きく変えた海との出会いや、その魅力、これから思い描く未来について伺いました。



HLC まずはボディボードを始めたきっかけについて教えてください。

——専門学校の友人に誘われたことがきっかけです。インテリアの専門学校に進学したことで環境が大きく変わり、「耳が聞こえない」ことの大変さを深く感じ始めた時期でした。海で波がザザーンと足元に寄せて来た時に、「この波は私を避けないんだ」と思ったんです。耳が聞こえる人も聞こえない人も関係なく、誰にでも平等に波は寄せるということが嬉しくて。

その時に「あ、わたしこの世界で生きてみようかな」と思い立ちました。そこからは、どんどんボディボードにはまっていきました。

 

HLC その後、本格的にプロを目指した理由は何ですか?

——昔から、どうせやるなら突き詰めたくなる性格なんです。ただ最初は、「いつかはプロになりたいな」と思うものの、実力を考えると口にすることはできませんでした。でも、一緒に様々な大会に出ていた親友が、どんどん試合に勝っていくようになったんです。すごく悔しくて、元来の負けず嫌いな気持ちが大きくなっていきました。

その親友は海の近くに住んでいたのですが、当時の私は都内に住んでいました。環境のせいにして、親に「海の近くに住んでいる人のほうが、絶対うまくなるよね」と言っていたら、「そんなに言うなら引っ越せばいいじゃない」と叱咤されて。そこで千葉へ引っ越すことを決めて、プロサーファーやプロボディボーダーが暮らす女子寮に入りました。そこで「私、絶対プロになろう!」と決心したんです。


HLC なるほど。そこから由美恵さんの挑戦が始まったんですね。ボディボードの楽しさって何でしょうか?

——海の一部になれることですね。また海から見える景色は、27年間海に入り続けていますが、本当に飽きることがありません。夕方頃のグラデーションがかかっていく空に見入ってしまって、波をかぶることもあるくらいです。笑。

 

HLC 同じマリンスポーツですが、サーフィンとは異なりますか?

——サーフィンは波の上にボードで立つスポーツなので、目線が高くなります。でも、ボディボードは波に腹ばいになって乗るスポーツなので、目線の高さが一緒なんです。より波と一体感になれるスポーツだと思います。


HLC プロの海外試合でハワイの大波にも挑戦されたそうですね。日本の海とハワイの海に違いはありますか?

——全然違いますね。ハワイの場所によっても異なると思うのですが、私が一番惹かれるのは、ノースショアの波です。難しくて、厳しくて。あの大波に挑んでいた頃は、波に乗りに行かなければ怖い思いをしなくて済むけれど、砂浜から眺めているのも嫌、という気持ちがありました。

当時は、憑りつかれたように毎日天気図をチェックし、暗いうちからドキドキしながらストレッチをして、ほのかに明るくなると海に入っていました。波の大きさは3~4mくらいと巨大で、足に当たっただけで内出血ができてしまうほど強い時もあります。普通、そんな大波がある海なんて怖いですよね。でも、それでもその波に立ち向かった人だけが得られる特別な感情があそこにはあるんです。

 

HLC そんなに怖いのに、なぜ挑戦されていたんですか?

——ただただ強くなりたかったんです。幼少から進行性の難聴を患っているので、いつか耳が聞こえなくなる時に、弱い自分でいたくないと思っていました。「あんな大きな波に挑戦したんだから、私は大丈夫」っていう自信が欲しかったんです。引退後、右耳が聞こえなくなった時も、あんな怖い波に乗れていたという経験が私を支えてくれました。

今でも海は、私にとって生活の一部であり、自分を正してくれる場所だと思っています。海に入ると、波長で全部が伝わってしまうような、自分が見透かされているような気持ちになるんです。嘘をつけないので、自分に正直に、感情を吐き出せる大切な場所です。

HLC 「あけうみ」や「デフキッズスクール」など、子ども達に海の楽しさを伝えるプロジェクトを開催されていますね。こういった取り組みにも、何かきっかけがあったのでしょうか?

——プロボディボーダーとして、海にたくさん教えてもらってきたので、それを誰かに伝えることで恩返しをしたいと考えていました。そんな時に東日本大震災があったんです。福島の子ども達に、海って素晴らしい場所なんだよと伝えたくて、千葉でボディボードを教える「あけうみ」の活動をスタートしました。

難聴の子ども向けにボディーボードを教える「デフキッズスクール」は、10年前からスタートしています。子どもたちに乗り方を教えても、なかなかその通りにやらないんですけど、当人達はすごく楽しそうなんですよね。教えながら、「そうだ、海は入るだけでこんなに楽しいものなんだ」と改めて気付かされます。

最初はみんな緊張していて無表情なのに、海に入って波に乗ると、途端に笑顔になるんです。やっぱり海の力ってすごいんだなと感じます。


HLC 新たにヨガインストラクターに挑戦されたりと、常に意欲的ですね。パワーの源は何でしょうか?

——常に何かをやっていたいという性分なんでしょうね。立ち止まると不安になりますが、何かに向かって挑戦していれば、気持ちがわくわくしてきます。

「残された聴力がなくなったらどうしよう……」なんて後ろ向きに考えてしまう時も、逆に「今のうちにできることを!」という気持ちで自分を奮い立たせて生きてきました。いい意味で、この聞こえない耳が「聞こえなくなったら大変だぞ、頑張れ!」って、背中を押してくれていると思います。そうじゃなかったら、キッズスクールも、あけうみもやらなかったかもしれないし、ハワイの大きいパイプラインにも挑戦できなかったかもしれません。

“耳が聞こえなかった”からこそ、海に出会い、海に助けられ、そして今の私がいるんだなと思っています。すべてがつながっているんでしょうね。

 

HLC これからの夢を伺ってもよいでしょうか?

——ボディボードスクール、ヨガ、講演……。自分のできることを最大限の力でたくさんやっていきたいな、というのが今の夢です。

 

HLC 登坂さんの今後の活躍が楽しみです。ありがとうございました。

 

【Profile】
2歳の時に、両耳の聴力を失う。プロボディーボーダーとして活躍後、2009年現役選手を引退。メンタルトレーナー資格とライフセーバー資格を取得し、2012年に東北大震災復興支援活動「陽(あ)けたら海へ」を開始する。同年、女性の聴覚障がい者限定「Kahului」を結成。2014年に両親の実家「千登世庵」3代目店長を受け継ぎ、そば屋の店主として店を切り盛りする。現在は各地での講演活動に加え、ボディーボードインストラクターやヨガインストラクターとして活躍中。
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【編集後記】
明るくて、優しい笑顔が印象的な登坂さん。話していると元気をもらえるような方です!プロとして戦っていた、(ご本人曰く)血気盛んだった頃のお話を伺うとかなりギャップを感じました。しかし、自然が相手となる厳しい局面や人生の辛い時期も自分を奮い立たせて乗り越えてきたからこそ、今の登坂さんに行き着かれたのだろうなと思います。自分で自分の背中を押す姿勢、私も見習っていきたいです。