【Aloha Interview Vol.50】エッセイスト・翻訳家・ フォトグラファー/近藤純夫さん
- 2014/04/15

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ハワイの地質をはじめ動植物、歴史、文化に至るまで幅広く研究し、講演に出版にと、幅広くご活躍中の近藤純夫さん。ハワイに魅了されたのは、長期に及ぶマウナロアでの地質調査がきっかけだったといいます。“ハワイのスペシャリスト”といわれる氏ならではの目線で見る、ハワイの魅力やその奥深さをうかがいました。


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HLC そもそもなぜハワイについて研究されるようになったのですか?

――元々、興味があって世界中の洞窟調査をしていました。ある年の洞窟学会がハワイ島のヒロで開かれ、ハワイ火山国立公園の方からマウナロアの調査に関するオファーをいただいたのが、ハワイ諸島にかかわることになったきっかけです。それまでハワイはリゾートというイメージが強く、行くことはまずないだろうと思っていました。

 

HLC これまでどの辺りを調査されたのですか?

――ハワイ島マウナロアの山頂付近をはじめ、キラウエアや他の島など、さまざまな場所の調査をしました。洞窟の中や岩を調査することで、その火山が噴火した時の気候や溶岩を流した回数など、多くのことが分かります。それらをレポートにして国立公園などに提出していました。

 

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HLC 近藤さんの視点から感じたハワイ諸島ならではの面白さは何でしょう。

――ハワイ諸島は地球上で最も速く移動する島です。今も年間6~9cmほど、北西にあるミッドウェーの方向に向かって動いています。ミッドウェーの地質年齢が約3000万年なので、その距離から推定するハワイ諸島の年齢は、北からカウアイ島約600万年、オアフ島約350万年、マウイ島約150万年、ハワイ島で約50~60万年となります。また、世界中に火山の島は多く存在しますが、ハワイ諸島はその中でも粘り気の少ない玄武岩で構成されているので、固まりにくく水のように流れます。そのためマウナロアもなだらかで、4000m級の山の割には高さを感じさせません。加えて、玄武岩は多孔質なため、水がたまりにくいという性質もあります。それゆえ、ハワイに川が少ないのです。

 

HLC マウナケアの山頂付近に湖がありますが、なぜ水がたまっているのでしょうか。

――その原因は分かっていません。マウナケアのビジターセンターにワイアウ湖の写真が飾ってあり、「ワイアウ湖の水は何十年も何百年も変化しない……現在どの学者もその原因は分かっていない」と書かれてあります。湖がある場所は山頂直下の尾根沿いで、水源もありません。降雪はありますが、年間の4分の3は晴れているため、自然に蒸発してしまいます。最近その水が減ってきているのですが、水が保たれている理由が分からない以上、減る理由も不明なのです。

 

HLC なるほど、不思議ですね。

――マウナケアはハワイ諸島だけでなく、ポリネシアで一番高い山です。山頂付近は最も天に近い場所として崇められており、一帯は聖地になっています。しかし歴史を紐解くと、その裏に隠された意味があることが分かります。マウナケアの山頂には太平洋で唯一の万年雪、つまり氷河が数十万年単位で乗っていたため、硬い石を採掘することができました。頑丈な石は、武器やナイフとなり、交易にも使用されていたのです。そういう意味で重要な場所であったため、聖地として守られていたとも考えられます。

 

HLC 他にもそういう場所はありますか?

――ハワイ島にあるワイピオ渓谷もそうです。ワイピオは歴代の王が住んだ場所で、カメハメハも幼少時代を過ごした土地として知られています。ハワイは淡水を確保するのが難しい島ですが、ワイピオには多くの滝が流れ、水が潤沢にある。そのため権力者たちが支配下におき、ワイピオを王家が住むべき優れた土地であるという設定をしたわけです。ワイピオ渓谷に歴史や神話などが数多く存在するのも、こういった背景があるからではないでしょうか。

 

HLC 物事には必ず背景があるのですね。

――ハワイに伝えられている神話の半分以上は、ポリネシアの島々に共通しています。例えば、フラの女神“ラカ”はクック諸島やタヒチ、マルケサス諸島では“ラタ”と呼ばれています。ハワイでは女神として信仰されていますが、その他の地域では男性として崇められていることが多い神です。メネフネ伝説にしても、似たような話が各島にあるのですよ。

 

HLC ハワイ独自の神話について教えてください。

――ハワイ独自の神話で最も有名なのがペレです。ハワイでは火の女神として崇められていますが、タヒチで“ペレ”というと単に岩や火山を指します。ハワイでは火山活動による災害と隣合わせで、火山活動が人間の文化に対して大きな影響を与えていたということが分かります。神話の重要性はこのようなところにも隠れています。

 

HLC 歴史と神話は深く関わりがあるのですね。他にはどのような例がありますか?

――ザトウクジラやマッコウクジラはハワイ諸島でよく見られる動物です。しかし、アメリカ人が18、9世紀にハワイにやってきて捕鯨を始める頃まで、ハワイの歴史や神話の中に、クジラの話はあまり出てきません。それは、クジラは人間社会に対して大きな影響を与えていなかった可能性が高いということです。歴史や神話に出てこないということも、1つの証拠になるのです。

 

HLC 興味深いです。話は変わりますが、近藤さんは植物の本を多数出版されています。

――今でこそ植物の本を出したり、講演をしたりしていますが、今から16、7年前、ハワイにかかわるようになった当時は洞窟以外に興味がありませんでした。花が咲いていても「あ、咲いているな」くらいにしか思わず、立ち止まることさえなかったのです。ですが、洞窟の調査を始めて5、6年くらい経ったある日、オヒアレフアの花の蜜が強い香りを放つのに気づき、その香りを楽しみました。当時はその植物が何であるか分からない。そういえば毎年この場所に咲いているなと、いろいろと調べるうちに、植物の世界に深く入っていくことになりました。

 

HLC そのようないきさつがあったのですね。

――植物について調べるということは、植物と共生する動物についても知らなければなりません。加えて、その植物がどういう気象条件と地形で生息し、どんな歴史を経てきたかということも必要になる。結局、植物にかかわることは、ハワイの自然を総合的に学ぶことだと気づいたのです。もちろんフラも植物と関係していますので、ハワイの文化に関しても学び続け、今日に至ったというわけです。

 

HLC 総合的に研究する必要があると。

――どんな物でも単体で存在しているわけではありません。物事はさまざまな物とかかわりをもって存在しています。例えばフラに関しても、ある信仰や景色の中にそのフラが必要とされる理由があります。祭壇に供えられている植物は、なぜそこにあり、どのような役割を担っているのか。植物の話をするということは、ハワイの文化に関しても伝えることになるのです。

 

HLC 物事はかかわりをもって存在しているということですね。

――ハワイの歴史を伝えるためには、ポリネシア全体の歴史を把握していなければなりません。たかが5年、10年調べたところで全て網羅できているというわけではありませんが、なるべく物事全ての関係性を、分かりやすく伝えていきたいと思っています。

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HLC わかりました。ちなみに、ハワイではどのように過ごされていますか。

――ほとんど仕事ですね。そして写真をなるべくたくさん撮るために早起きしたり、夜遅くまで起きていたりします。ハワイには2万種類もの植物が生息しているので、いくら撮ってもきりがありません。以前はハワイに滞在中フル回転していましたが、今は帰国する前に1日フリーな日をつくり、好きなことをしています。

 

HLC ハワイでの楽しみは何でしょう。

――普通に歩いていても気づくことがたくさんあります。ある時、買い物をするためにオアフ島カイルアのホールフーズに行ったら、店の前の花壇にハワイの固有植物がずらりと並んでいました。そこには山間部に入らないと見られないような珍しい植物もいくつかありました。リゾートエリアの民家では植栽にこだわりをもつところが多いので、見たこともないような植物が突如現れたりします。それらを眺めて歩くのも楽しいですよ。

 

HLC 最近ハワイで感動されたことは?

――東北の大震災の後、ハワイ島に行った時のことです。自分たちも津波の影響を受けたのに、各店頭には日本のための募金箱が設置され、老若男女、小さな子どもたちまで、募金してくれていたのです。日本人を発見すれば、駆け寄って「大変だったね」と声をかけてくれる。本当に心配してくれていました。日本とハワイは太平洋プレートでつながっていますが、それだけでなく、気持ちの上でのつながりを深く感じました。

 

HLC 今後、伝えていきたいことは何でしょう。

――長年、子どもたちを対象にしたハワイのネイチャーツアーを開催しています。日本とつながりが深いハワイ。そこで学んだこと、発見した喜び、発見する工夫の仕方を日本に持ち帰り、役立てて欲しいと思います。

 

HLC ありがとうございました。

 

【Profile】
エッセイスト、翻訳家、フォトグラファー。1994年よりハワイ火山国立公園アドバイザー、06年よりフラレア・ハワイアン・カルチャー講師、07年より常磐音楽舞踏学院講師などを務める。主著に『ハワイBOXフラの本』(講談社)、『フラの花100』『ハワイアン・ガーデン』『ハワイ・トレッキング』(平凡社)など多数。

【編集後記】
近藤純夫さんのことを知ったのは、5、6年前、ハワイ諸島へトレッキングに行こうとしていた時のこと。『ハワイ・トレッキング』というガイドブックに出会ったこときっかけだった。ガイドブックを手に、各島いくつかのルートを歩いたことで、ハワイの自然の大きさに直接触れることができ、ハワイがますます好きになった。HLCのスタッフとして活動している今があるのも、その本があったからといっても過言ではない。実際にお会いしてみて、想像以上に深くハワイを追求し、私たちに伝えてくれいることに衝撃を受け、そこに言葉では表せないほどの大きな“愛”を感じた。取材は1時間ちょっとだったが、今度は腰をすえて、フラのことも聞いてみたい。