【Aloha Interview Vol.88】ネイチャーサウンドアーティスト/ジョー奥田さん
- 2017/11/27

世界各地の自然音を録音し、私たちに届けることをライフワークとしているジョー奥田さん。自然音には、写真や映像にはない人間の様々な記憶の引き出しを開ける力があるといいます。ハワイ島ボルケーノの森の中という自然に囲まれた土地で鳥たちとの生活を楽しんでいる氏に、自然音が持つ力やその魅力についてうかがいました。


HLC そもそも自然音を録るようになったのは?

――日本を出てからはロサンゼルスで音楽関係の仕事をしていたのですが、その時によく一緒だった音楽プロデューサーに誘われ、アメリカの国立公園の自然音を録る手伝いをするようになりました。当時はスタジオにこもって朝から晩まで音楽ミックスをしていたので、自然の中で太陽の光や風を感じながらの仕事は単純に楽しかったですね。

 

HLC それで自然音録音家としてやっていこうと。

――スタジオでは朝からずっと同じ曲を聴き続けているので、耳が疲れてきます。耳休めのつもりで、ふと自分が録ってきた森の音を聴いた時、その音があまりにも完璧なことに衝撃を受けました。人間が作る音楽“マン・メイド・サウンド”に対して、自然の音は“ゴッド・メイド・サウンド”。だからパーフェクトなのだということに気がついたのです。

ちょうど今後の生き方について考えていた時期。アメリカの音楽の中心地であるニューヨークやロサンゼルスで音楽プロデューサーとして仕事をしてきたという経験、そして日本で生まれ育ったという背景……。それらを元に考えを整理する中で、自分は自然の音を世の中に届ける役割を担えるのではないかと考えたのです。

 

HLC 奥田さんの作品作りの根本にあるものは?

――アメリカの音楽学校に通っていた時に、音楽には何が大切で、何を録音して、何を人に届けるべきなのかということを学びました。その経験が自分のバックボーンになっています。

スタジオの中で録音することの一番大きな目的は、ミュージシャンや音楽の“マジックモーメント”を録ること。マジックモーメントとは、突発的によい演奏ができた瞬間のことを指します。ただ上手に、間違いなく演奏できたというのではない、プロのミュージシャンにはそういう瞬間があります。私が自然音を録る時に一番意識するのはそこで、特別に美しい瞬間がやってくることがあるのです。

 

HLC 自然音にもマジックモーメントがあるのですね。

――森は1つの大きな生命体です。私たち人間が森の入り口に立った時、その森は人間が入ってくることを知っています。そして森は決して人間のことが好きではありません。私たちは自然がないと生きてはいけませんが、自然は私たちがいなくてもそこに広がっている。人間と自然は一方的な依存関係です。だから“音を録りに行く”のではなく、“音をいただきに行く”というスタンスでいます。その時にいただけるものをいただけた分だけ持って帰る。そういう姿勢でいると、素晴らしい音を体験させてもらえる瞬間があります。それが自分の中での1つのマジックモーメントです。

 

HLC 録音はどのように行うのですか?

――初めて訪れた土地で録音をする時は、まず1週間ほどロケハンをします。そして好きな場所を見つけたら、毎日様々な時間帯に通い、音をいただく。その繰り返しです。日によっては音をもらえない場合もありますが、そういう時は無理して録ることはありません。いただけるものだけをいただくだけ。それがその時の自分に与えられたもので、足りなかったらまた行けばよいのです。

 

HLC ハワイ島に拠点を移されたきっかけは?

――自然音を中心に活動していこうと決めた当初は、東京に住む人たちに聞いてほしいと考えていたので、東京を拠点にしていました。そして明治神宮鎮座90年記念で『美しき神宮の森』というDVDを手がけたことを区切りに、またロサンゼルスに戻ろうと考えていたのですが、その時に起きたのが東日本大震災です。その影響は遠くハワイにも及びました。

日本やハワイでファウンドレイジングのイベント行なって寄付金を被災地に送る活動をする中で、ぼんやりと将来はハワイに住みたいと思うようになり、日本を離れるタイミングでハワイに拠点を移すことになったのです。ハワイ島を選んだのは、これまで訪れたハワイ諸島の中で最も好きな土地であったこと、そしてイベントを通して知り合った大切な人が多かったからです。

 

HLC ハワイでのライフスタイルを教えてください。

――自宅があるのは、ハワイ島のボルケーノの森の中です。郵便配達も来ないし、ゴミの収集も来ない。ガスも水道もない所に住んでいます。森を出るのは、月に1度、街へ食材を買いに行く時。世間との距離が遠く、2〜3週間人と会話をしないこともあります。まるで世捨て人状態でしょう(笑)。その距離感の中で様々なこと考え、作品を作る毎日です。

 

HLC 今後はどのような活動をされる予定ですか?

――今興味があるのがVRの世界です。学生時代、医療現場と近いところに身を置いていたので、未だに医療従事者とのつながりが多く、自分の中でも医療に対するウェイトは大きい。例えば睡眠障害をもつ患者さんの治療のために、私のCDが使われたりしています。自然の素材は精神ケアの役に立つのです。今後は、ホスピスで緩和ケアを受ける患者さんたちの精神ケアの一助となるような作品を作っていけたらと考えています。

 

 

HLC 先日リリースされたCD 『Kilauea forest 24Hours』について教えてください。

――ハワイはビーチリゾートという印象が強く、観光で森を訪れることはなかなかないかもしれません。でも実は森も非常に深くて美しい。このCDは、ハワイ島ボルケーノの森の1日を60分で体験できる内容になっています。24時間録音したものの中から、時間ごとに2分30秒ずつ切り取って繋げました。写真でいうところのタイムラプスです。

 

HLC 私たちにどのように音を楽しんでもらいたいと考えていますか?

――例えば、1日の終わりのリラックスタイムに何を聴こうか選ぶ際の、選択肢の1つとして自然音があってくれたらうれしいですね。自然音を聞いていると、その場所にトリップしているような気分になれますから。

 

HLC ありがとうございました。

 

【Profile】
ジョー・オクダ 1954年大阪生まれ。大阪歯科大学卒業後渡米し、ロサンゼルスへ。86年より音楽プロデューサーとしてレオン・ラッセルなど著名アーティストのプロデュースを手がけ、98年より自然音楽家としての活動をスタート。現在ハワイ島を拠点に自然の記録を7代先の世代に伝えることをライフワークとして活動中。ボルケーノアートセンター音楽委員。
http://www.joeokuda.com/

★ハワイ島・ボルケーノの森の24時間を録音したCD『Kilauea forest 24Hours』好評発売中。
http://www.m-i-m.com/sound/

【編集後記】
「ハワイ島の人里離れた森の中で暮らしている日本人がいる。」そう聞いた時、なぜか心が踊ったのを覚えています。お会いしたのは都内でしたが、まるでボルケーノの森がやってきたかのような雰囲気。心地のよいトーンで、丁寧にご自身のことを語ってくださいました。自然の中でとても謙虚に生活し、自分に与えられた役割に対して忠実に取り組んでいる奥田さん。いつかハワイ島を訪れた際は、ボルケーノの森で鳥たちのさえずりを直に聞いてみたい。

 

MACHA