2006年ハワイ島のハマクア浄土院でボンダンス(盆踊り)を目にして以来、ボンダンスに魅了され、ハワイに通い続けているという岩根愛さん。ボンダンスで一番盛り上がる曲のルーツが福島にあるということから、福島とハワイと行き来し、その魅力を伝えるプロジェクトに取り組んでいます。彼女を動かす動力となったハワイのボンダンス、日系移民や福島の人々との出会い、そして今後彼女が成し遂げようとしているプロジェクトについてうかがいました。

HLC まず、ハワイのボンダンスについて教えてください。
――ハワイには日系移民が建てた仏教寺院が多数あり、6月の終わり頃から9月の始め頃まで、夏の間は毎週末どこかお寺でボンダンス(盆踊り)が開催されます。かつては日系人のイベントでしたが、今ではコミュニティーの1つの大きなイベントとして様々な人種の人が参加し、かなりの盛り上がりを見せています。ボンダンスプラクティスクラブというのがあり、一年中練習しているお寺もあるんですよ。曲は全部で30曲くらいあり、皆完璧に踊りこなしています。その中の1曲に、太鼓の生演奏で盛り上がる「フクシマオンド」あります。
HLC 「フクシマオンド」ということは、福島の盆踊りですか?
――はい。初めて日本からハワイへ移民が渡ったのが1868年。マウイ島への移民は1885年くらいから始まりましたが、福島の人たちが移ったのはそれから15年ほどしてからでした。この間に移民社会は形成されていたので、先人が切り開いた場所に後から入って行く際に方言が理解されづらく、うまくなじめなかったことなどもあったようです。彼らにとって、自分達の言葉で話せてのびのびと過ごせるのは故郷の仲間と共に過ごす時。そういった中でボンダンスが始まり、それが心の支えの1つであったのではないかと思います。

HLC 日本の盆踊りと同じようなイメージですか?
――皆で先祖と共に踊るという意味合いが強いと感じます。戦争により一時日本文化に関することが一切行えなくなった時期がありましたが、2世の人達の活躍があり、日系人はアメリカ市民として認められました。そういったこともあり、ボンダンスの前には必ず法要があるので、始まりは厳かです。その後、灯篭流しを行を行うお寺もあります。そしてボンダンスが始まります。
HLC ボンダンスに魅了されたきっかけを教えてください。
――2006年に撮影の仕事で初めてハワイに行った時に、ハワイで一番古いといわれる、ハワイ島のハマクア浄土院を訪れました。山の中にある、とても立派なお寺です。ボンダンスの日は朝早くからごはんを何度も炊いて、振舞う食事の支度をしたり、境内の掃除をしたり、お参りをしたり。そういった忙しい準備の後皆で踊るので、とても開放感があります。おじいさん、おばあさん達が一生懸命準備をして最後に踊るというのが何ともよく、心を動かされました。今年出版した絵本『ハワイ島のボンダンス』(福音館書店)のストーリーは、このハマクア浄土院のボンダンスを初めて体験した時のことをもとに書きました。それから毎年ハワイのボンダンスに通うようになったのです。
HLC 福島との関係についてもう少し教えてください。
――2011年5月頃、映画『100年の鼓動〜ハワイに渡った福島太鼓〜』を見ました。その中にフクシマオンドを歌う「マウイ太鼓」というグループが登場します。東日本大震災の原発事故により避難した人達のことなどが重なり、マウイ島にマウイ太鼓を訪ねました。ちょうどその時、アロハ・イニシアチブという支援で東北各地からの被災者がマウイに滞在していて、福島県双葉町からも子ども達が来ていました。ボンダンスの最中、始めは隅のほうにいた彼らも、マウイ太鼓がフクシマオンドを演奏し始めたら「この曲知っている」と踊り始めたのです。
フクシマオンドの故郷は今避難区域になっている場所。原曲は、「相馬盆唄」として知られる唄です。過去に福島からやってきた人達が伝えてきた曲が、ハワイのボンダンスで最も有名な曲になっている。そのことを福島の人達に伝えたいと思いました。「もう踊れないと思っていたから、踊ることができてうれしい」と双葉の中学生が話しているのを見て、マウイ太鼓にぜひ福島に来てもらいたいと話すと、その翌年、彼らは福島に来てくれました。それからマウイ太鼓と福島の各地域の太鼓団体との交流が始まったのです。
HLC 今遂行しているプロジェクトについて教えてください。
――ハワイの日系移民1世の忘れられた墓地と、フクシマオンドの故郷である避難区域の写真を撮影しています。使用しているカメラは、コダック・サーカットという、ゼンマイ仕掛けでカメラ本体が回転する大判カメラ。幅20cm、長さ2mにもなる長いパノラマ写真を撮ることができます。このカメラはかつてハワイで、日系人達が葬儀などの集合写真を撮るために使っていました。ハワイの寺院や日系人の家に行くと必ずこの大きな写真があります。

2007年にカウアイ島で当時の写真を見つけてから、ずっと探していたカメラです。それを、2011年にマウイ島のラハイナ浄土院を訪ねた時に見つけることができました。ゼンマイの修理をしてもらったのは、福島県三春町の時計屋の職人さん。そして現像には2mほどのシンクが必要なので、三春町の廃校で行っています。ボンダンスに出会ったことからハワイや福島に通うようになり、この写真やカメラとの出会いがあり、多くの人との出会いがあり、今のプロジェクトにつながっています。
HLC 撮影した写真はどこかで発表される予定ですか?
――2018年にマウイ・アーツ・カルチャル・センターで写真展を開催予定です。それまでに全て撮り終えたいと思っています。また、マウイと双葉町の盆唄についてのドキュメンタリー映画も撮影中で、これも2018年に公開予定です。

HLC 岩根さんにとってのハワイとは?
――これまで仕事の関係で様々な地域を旅しましたが、ハワイに通うようになってからは、ハワイにだけ行ければよいと思うようになりました。自分にとっては、ハワイは世界で一番よいところ。他にどこかに行きたい、という欲がなくなりました。今は年の半分は東京、残りのだいたい3カ月ずつをハワイと福島で過ごしています。
HLC ハワイではどのように過ごされていますか?
――ハワイでは各島で過ごし方が違います。マウイは仕事をしに行く島という感じ。福島とのかかわりが強く、マウイ太鼓のメンバーと様々なプロジェクトを行ってきました。ハワイ島やモロカイ島では、自然の中に1人でいることが好きです。自分に向き合うカウンセリングのようなもので、ハワイで思いついたことを日本に帰ってきて実行するということが多いですね。インスピレーションをもらう島でもあるし、考え事や集中をする場所でもあります。
HLC ありがとうございました。
【Profile】
岩根愛 いわね・あい 写真家。1991年単身渡米、カリフォルニア州のペトリアハイスクールに留学、自然エネルギーと自給自足の暮らしの中で学ぶ。1996 年に写真家として独立後、世界各地の多様なコミュニティにおもむき、2006年以降は、ハワイにおける日系文化に注視し、ハワイ各地の盆ダンスを訪れ、取材・撮影を続けている。【Information】
『ハワイ島のボンダンス』(福音館書店)好評発売中!
岩根愛:文/大友康夫:絵
定価:1400円+税
http://www.fukuinkan.co.jp/bookdetail.php?goods_id=23759![]()
岩根愛写真展 『I Want to Laugh even for An Instant』 開催中
日時:2016年11月11日(金)~12月29日(木)午前10時~午後6時/日曜休
開催場所:フォトギャラリーいとう
〒963-7756 福島県田村郡三春町大町50いとうカメラ店内はま・なか・あいづ文化連携プロジェクト成果展
『アートで考える考える、福島の今、未来 in MATSUMOTO』
(飯舘村の記憶と記録プロジェクトに参加)
日時:2016年12月7日(水)〜12月23日(金) 8:45-22:00(平日)、10:00-19:00(土日祝)
開催場所:信州大学附属図書館 中央図書館 ほか
長野県松本市旭3-1-1講演 “Song of Fukushima”
日時:12/17 (日) 10:00-11:30am
開催場所:曹洞宗別院 1708 Nuuanu Ave. Honolulu 96817
Program:10:00 Storybook reading “Hawaii-shima no Bon Dance” written by Ai Iwane.
Illustrated by Yasuo Otomo. Read by Naoko Moller
10:20 Presentation by Ai Iwane福島県立博物館特集展
はま・なか・あいづ文化連携プロジェクト成果展
日時:第一会場:2月4日(土)〜4月11日、第二会場:2月11日(土)〜4月11日
9:30〜17:00 /月曜休館
開催場所:福島県立博物館
〒965-0807 福島県会津若松市城東町1-25【編集後記】
ある出会いがきっかけとなり、人生ががらりと変わることって本当にあるのだと感じたインタビューでした。自身の心のままに、周りの人達を上手に巻き込み、プロジェクト遂行する。本気で何かに向かっている人には、何ともいえない魅力があります。初めてお会いしてお話を聞いているうちに、そのパワーに引き込まれているような感覚になりました。2018年の写真展、映画の公開が今から楽しみです。
